タグ: 倒産する出版社に就職する方法
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生まれくる、愛しきわが子へ
倒産する出版社に就職する方法・第29回
ようやく終わった……。
「白焼き」を抱えて営業車へと戻っていく印刷所担当者の後ろ姿を見送りながら、私は安堵のため息をつきました。
この1カ月、カレンダーを睨みながら日々の作業に追われ、次々勃発するトラブルに気を揉んでいた9月新刊『買いものは投票なんだ』が9月3日、今日校了を迎えたのです。
ついに今日校了か……。
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そして最終日に
倒産する出版社に就職する方法・第28回
わが耳を疑った。
聞き間違いであってくれ、そう願った。
だから、一度目は聞こえなかったふりをした。
「えっ? なんですか?」
いかにもケータイの電波状況が悪い風を装った。いっそのこと今この瞬間この地域一帯で電波障害が起こらないか、そんなことも念じた。
その声はもちろん届いていた。
耳に、ではなく、心臓に。そしてそのまま私の半身を突き破り、事務所の床に散らばり落ちた。
「はじめに、ぜんぶ描きなおしたいんだけど」
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ある依存症患者の告白
倒産する出版社に就職する方法・第27回
ええ、最初はほんの出来心だったんです。
何年か前ですね。「こんなのあるんだぜ。やってみないか?」って、当時付き合っていた仲間が教えてくれて。どんなものなのかな、という興味もありました。ちょっと刺激的だし、なんかドキドキするっていうか。
初めは、「ああ、こんなもんか」って感じで、効いたんだか効いていないんだかよくわからなくて。でも、なんかスカッとするような気持ちもあったものですから……。
そのあとは、1カ月に1~2回だったり、もっと間が空いていたりで、気が向いたときだけっていう感じでした。
やめようと思えば、いつでもやめられるって思っていました。最初は。引き返せないところまでは行かないって。自分だけは大丈夫だって。私みたいになっちゃった人、みんなおんなじこと言うのかもしれませんけど。
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『ありえないミスを犯しました……』
倒産する出版社に就職する方法・第26回
8月19日、穏やかな日曜が終わろうとしているとき。
ふたたび長澤美穂氏からのLINEです。
『最悪はわたし東京行きます』
……。
これ、何かへの返信ではありません。
唐突かつ一方的なメッセージです。
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運命という名の荒波
倒産する出版社に就職する方法・連載第25回
「ワタシ、原画持って東京行く。届けに行く!」
「は、はあ……」
8月19日夜、青春マンガのヒロインのような台詞に気おされて、なんとなく了承してしまったものの、まさかあのような事態を招くことになろうとは……。
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編集的問題解決の技法
倒産する出版社に就職する方法・第24回
8月16日の朝。
まだ盆休み明けの気だるさが支配する靖国通りを一台のバイクが疾走する。欠伸を噛み殺している街を尻目に、ヘルメットを小脇に駆け抜けた私は、いつもより早めに事務所に飛び込む。
はやる気持ちと噴き出す汗を抑えるべく、エアコンのスイッチを入れ、ひと息つく。
この日、私はあるものの到着を心待ちにしていた。
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あの日見た、虎の檻で
倒産する出版社に就職する方法・連載第23回
2018年8月14日。
今、私の手元には、法生(ほう)こと長澤美穂氏が描いたB4画用紙6枚分の原画があります。
一枚、二枚、三枚……。たしかに6枚です。
9月刊行予定の『買いものは投票なんだ』はB5判・40ページの本。B4画用紙一枚が本の2ページに相当するので原画は20枚必要です。
電卓を叩いて、20-6=14。
あと原画が14枚必要になる計算ですね。
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チャンス、到来
倒産する出版社に就職する方法・連載第22回
積年の事情を踏まえ、フォレスト出版から送られてきた9月新刊のISBN書籍記号を見て、私は震えたわけです。
500、600、700を無理矢理に獲得した三五館時代。
そして今、環境の激変によりISBN書籍記号を選ぶ余地もなくなった私に向こうからやってきた奇跡。
消息不明だったかつての友人が、唐突にふらりと新しい事務所を訪ねてくれたような。
「やあ、しばらくじゃないか。どうしてた……」
「おお、お前か! どうしたもこうしたもねえよ。三五館潰れちまった。で、今は見てのとおり独りきりだ。でも、まだあきらめたわけじゃねえぞ」
会えると思ってもいなかったし、じつはそんなこともうとっくに忘れてしまっていたのに。向こうから、突然に。
――これが吉兆でないはずがないのです。
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ある画家の悲劇
倒産する出版社に就職する方法・連載第21回
中国の梁(502~557)に張僧繇(ちょうそうよう)という画家がいたそうなんです。
この張さん、絵画の技術が飛びぬけていて超うまい。
それに目をつけた梁の武帝は彼に、寺の壁に4匹の竜を描くよう命じたんです。
たぶん「スプレーアートみたいなので寺の壁に落書きされたらかなわん。超うまい竜のイラスト描いておけば、よもやそこに上書きしてスプレーアートで描きはしまい」とか考えたんでしょう。鳥居のマーク描いておけば立小便防げる、みたいなトンチの防御法ですよ。側近も「さすがですね」「その手がありましたか!」っつって。武帝のまわりなんて基本イエスマンばっかですから。
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ISBNからのメッセージ
倒産する出版社に就職する方法・連載第20回
978-4-86680-900-7
昨日、フォレスト出版から送られてきた、三五館シンシャ2018年9月新刊『買いものは投票なんだ』のISBNです。
下4桁にご注目ください。
「おっ、900!」
思わぬ吉兆に、私は興奮しました。
これほどの興奮は先日、ガリガリ君コーラ味を食べていたらアタリ棒が出て以来です。なんという僥倖続きでしょう。