倒産する出版社に就職する方法・第75回
この連載、やめたと思ったでしょ?
最終更新が1月22日で、そこから早3カ月。
それまでずっと1~2週間に一度ずつ更新してきたのが、3カ月更新されなかったら、ふつうもう二度と更新されないよね。商店街の和菓子屋のシャッター、3カ月閉まってたらもう潰れたと判断するよね。
ね、みんなも、もう二度と更新されないと思ったでしょ?
じつは俺自身がそう思った。
いや、俺だって初めの1週間くらいは「早めに次、更新しないとな」と思ったよ。
2週間くらいで「そろそろマズイ。早く次、書かないと」と焦った。
3週間で「もう3週間経ったか…。どうしよう」と迷った。
今思い返せば、ここが山だったな、うん。
山を通し越したら、もうなんでもなくなった。マズイマズイと思っていた罪悪感がなくなった。田代まさしもそういうもんだって言ってた。
だって俺忙しいし。新刊は2カ月に一度のペースで出しているわけだし、そこそこ売れている本もあるわけだし、連載書かなくてもいいじゃん、と。
自分で自分に聞いてみた。
そしたら、もう一人の俺がこう言ったんだ。
「そやな」
そやろ?
もうええねん。
俺、頑張ってん。精一杯、生き抜いたんや。パトラッシュ、疲れたろう。俺ももう眠いんや。
いや、俺だって、最初は意気込んださ。
2018年5月。連載第一回。あのとき俺は燃えていた。
出版社のホームページによくある無味乾燥な新刊情報ではなく、三五館シンシャの活動をvividにレポートし、読者をentertainさせ、われわれのpresenceを高める、そんな文章、そんな連載を書いてやる!
今は1日5人しか読んでいないけど、連載を更新し続けるうちに読者も1000人、1万人、10万人と着実に増え、そのうちどこかの出版社の目に留まって、単行本化の打診が来るんじゃねえか。そんなことも思った。
来ねえ。
そんな打診、一切来ねえ。
30回くらいでもうそんなことは起こらないと俺は気づいた。
それでも俺は書き続けた。
俺を突き動かしたもの、それは……
惰性
俺は書き続けた。
連載を重ねるとホームページへのアクセスユーザー数(=連載読者)は1日100人くらいまで増えていった。1000人、1万人へと続くステップだと思っていた。
その後、読者は100人で頭打ちになった。それ以上は伸びなかった。ステップじゃなくて、そこがジャンプし切った着地点だった。
そのころには三五館シンシャのpresenceを高めるという当初の目的も完全に消失した。ホームページ連載でやらんでもええねん。新刊が売れれば必然的に出版社のpresenceは高まんねん。そやろ? また、もうひとりの俺が力強くうなずいていた。「そやな」。
こうして書く意味を完全に失った俺を動かしたもの……
惰性
純度100%の惰性により、俺はなおも書き続けた。
たまにFBのメッセージで激励してくれる読者がいた。知人友人も「読んでるよ」と言ってくれた。励みになった。
「惰性」に、読者からの「励まし」をくわえ、進化したハイブリッドエンジンで俺は書き続けた。
2020年4月。
止まっていた時計の針が再び動き出す。
閉じていた和菓子店のシャッターが上がる。
ずっと閉めていた店を再開するとき、和菓子屋がすべきことは何か?
それは店を閉めていた理由を語ることではない。
ただうまい和菓子を提供することだ。
「腐った白あん、要らんかね」