三五館シンシャ

さわやか男と向かってくる女

倒産する出版社に就職する方法・第31回

 

Amazon和書総合16位に急襲され、ぐふふ感がにじみ出る私。

この件について、とりあえず著者の藤原ひろのぶ氏と長澤美穂氏に知らせなければなりません。もうずいぶんと使いこなせるようになってきた「買いものは投票なんだ」グループLINEです。

 

『Amazon16位です。ありがとうございます』

一発目はこのくらいにとどめておくべきです。コイツぐふふ感出てるな、と思われてはいけません。

 

『嬉しいですね。頑張りましょう^^』

 

藤原氏もランキングに注目していたのか、すぐにさわやかな返信がありました。

ふだんはさわやかな青年然とした藤原氏ですが、じつはこの人物も大概なクセモノではあります。

本書の制作中、私の目の前で突如、内容をめぐって長澤氏と激しく口論を始めた際の野犬のような目。

原稿を書いていたかと思うと突然体を揺さぶりその辺グルグル回りだす死にかけの蝉のような挙動。

締切を過ぎ原稿催促の連絡を入れたときのフクロウのような長き沈黙――。

 

しかし、それもこれも今となってはよい思い出です。苦労はすべてAmazon和書総合16位が洗い流してくれたのですから。

 

 

続けざまに長澤美穂氏からの返信です。

 

『あした、東京いくことにした!』

 

……。

 

「Amazon16位」→「東京行く」、この思考回路はよくわかりませんが、東京に行くことにしたそうです。

嫌な予感がしてきました。

Amazon16位が流し去ったはずの苦労がまだ便器にこびりついてる?

 

 

前回(第30回)分でも書いたとおり、明日(9月5日)は本文の印刷日でもあり、私も実機の印刷に立ち会うため、朝イチで板橋の印刷所を訪れることになっているのです。

そもそも私が印刷現場まで行って印刷に立ち会うことになったのは、スケジュールの都合で2回目の色校がとれなかったためです。

2度目の色校がとれないとわかった途端、作品への異常なこだわりをみせる長澤氏から再三にわたり、「ねえ、色、ホント大丈夫なの?」砲が浴びせられ、こちらも迎撃のため「本番の印刷に立ち会って私が厳しくチェックしてきます」弾を用いたのです。

こちらとしては「ハァ?もともとおめえが原画の納品遅せえから色校2回目とれなくなったんだろうがよ」弾も保有しているわけですが、これについてはジュネーブ条約にもとづいて人道的な理由から使用が禁止されています。使えません。

 

よもや東京にやってきた長澤氏に「やっぱワタシも印刷所に色見に行きたい」弾でも落とされたら――。

印刷所の工場長、印刷現場の職人、営業担当者……焼け野原になった板橋の印刷工場跡地に呆然と立ち尽くす悲嘆にくれた人々の姿が脳裏に浮かびました。

 

私はいい。私だけならどうなったって構わない。しかし、無関係な市民たちから平穏な暮らしを奪うわけにはいかないのです!

 

 

 

とりあえずメッセージは読まなかったことにして、寝ることにします。

 

 

 

翌朝。

 

目を覚ましてすぐ、やはり気になるのはAmazonランキングの動向です。

Amazonをリロードします。

 

(和書総合)5位。

 

来た……!

 

 

そしてもうひとつ気になるものがあります。昨晩無視したLINEメッセージです。

「買いものは投票なんだ」グループLINEを開きます。

 

『いま東京むかってます』

 

来た……?

(つづく)