倒産する出版社に就職する方法・第43回
『ものすごく重要な問題なのに、僕たちのほとんどは無関心。なぜならしっかりと教わってないからです。ということでEARTHおじさんと一緒に考える個展を東京で開催します^ ^』
10月初旬、『買いものは投票なんだ』刊行以降、恒例となった朝イチでの藤原ひろのぶ氏のフェイスブックチェックを行なった私は、わが目を疑いました。
EARTHおじさんと一緒に考える個展を? 東京で? 開催?
聞いてねえ。
ものすごく重要な問題なのに、しっかりと教わっていねえ……。
突如個展の開催を知り、ワクワクとは別の意味で胸の高鳴りが止まりません。続きを読みます。
『環境問題って大人になってから学ぶことが多いのですが、もっと子どもの頃から勉強しても良いはず
そこで!!
12月3.4.5日
この日に東京でEARTHおじさんの個展を開きながら
子どもと一緒に学ぶEARTHおじさんが困っていること(仮タイトル)
を実施したいと思います。』
日付も仮タイトルも初耳です。
誕生日、家に帰ってきた人に玄関でクラッカーを鳴らすのはサプライズです。
平日、家に帰ってきた人の玄関にマキビシが撒かれているのはサプライズとは言わないのです。奇襲と呼ばれ、場合により罪に問われるのです。
なぜこのような奇襲がなされたのか。藤原氏は午前中ほぼ電話がつながらないため、長澤氏に確認するしかありません。
「12月の頭に東京で個展やるんですか?」
「なに?」
「東京で、個展」
「誰の?」
「おじさんの」
「おじさんの?」
「ええ、東京で、12月に」
「なんで?」
「おじさんが困ってるんで」
「おじさんが困ってる?」
どうにも話が通じません。
「藤原さんがフェイスブックで書いているじゃないですか。個展を開催するって」
「そうなん?」
「そうなん??」
よくよく聞いてみると、個展開催のことも、開催日時もタイトルも、長澤氏は聞いていないと言います。話が通じないのも当然です。
記憶をたどってみれば、『買いものは投票なんだ』刊行後に3人で集まって行なわれた販売促進会議において、長澤氏から「EARTHおじさんの個展をやってみたい」という話が出たことがあります。藤原氏も「ええな」と応じ、私も「そういう企画も面白いかもしれませんね」と答えていました。しかし、あの一言だけをもって、描き手になんの相談も断りもなく、タイトルと日付まで決めて、告知をしはじめるとは……。
「それじゃあ、何をどのくらい描くとか長澤さんと相談もなしに、藤原さんが勝手に発表したというわけですか?」
「うん。そうでしょ」
「……」
「でも本のときも最後の1カ月でやれたし、まだ2カ月あるから余裕じゃね?」
2カ月あるから、余裕……。
仕事の難易度・総量等をいっさい考慮に入れず、残り時間だけから作業の見通しを導き出す、まったく新しい思考法です。
「……」
「個展やるんだ。なんか燃えてきた」
なんか燃えてきたそうです。展開と火の廻りが速すぎます。
藤原ひろのぶがなんの通告もなく勝手に走り出し、長澤美穂が猛烈な勢いであとを追いかけ始めました。もうプロジェクトは発進しているのです。グズグズしていれば置いてけぼりを食らうだけです。先行きが不透明ではあるものの、取り急ぎ私もこのプロジェクトの最後尾に飛び乗ることにしましょう。
「ねえ、ちょっと待って!」
プロジェクトに飛び乗ったと思ったら、長澤氏の急ブレーキです。
「12月3、4、5日って何曜日?」
「ええと……、月・火・水ですね」
「平日じゃん!」
「ええ、そうですが」
「なんで平日にやんの? 子ども来れなくね。ナニそれ? なに考えてんのアイツ!」
またなんか燃えてきました。
こうして幾多の危機をはらんだままスタートした「EARTHおじさん」個展プロジェクト、またしても私は巻き込まれていくことになるのです。